Google AdSense


最近のトラックバック

« 2008年1月 | トップページ | 2008年6月 »

2008年3月

2008年3月 1日 (土)

平和神軍観察会事件・被告人無罪!!


無罪を勝ち取った橋爪研吾・元被告

 全国展開するラーメンチェーン「花月」の運営母体であるグロービートジャパン社への名誉毀損罪に問われていた会社員・橋爪研吾被告に対して、2月29日、東京地裁が無罪判決を言い渡しました。

 橋爪氏は1999年頃から「次瀬徹」のペンネームで、右翼カルト集団「日本平和神軍」に関する情報を自身のwebサイト「平和神軍観察会・逝き逝きて平和神軍」に掲載。平和神軍や代表者である中杉弘(本名:黒須英治)氏の差別思想、ニセ学位商法(イオンド大学)や宗教法人売買などを批判していました。同時に、黒須英治氏が会長を務めるグロービートジャパン社と平和神軍との関係も指摘していたため、2003年2月にグロビートジャパンが、橋爪氏に対して名誉毀損と営業妨害を理由に3,150万円の損害賠償を請求する民事訴訟を提起。計77万円の支払いを橋爪氏に命じた2005年の東京高裁が確定(最高裁が上告を棄却)しています。

 一方、グロービートジャパンは2002年に刑事告訴も行っており、民事裁判が決着した後も、橋爪氏を名誉毀損罪に問う刑事裁判が東京地裁で継続していました。今回、橋爪氏に「無罪」の判決が下ったのは、この裁判です。

 無罪判決後の記者会見で、橋爪氏の弁護人である紀藤正樹弁護士らは、今回の判決を「画期的な判決」と評価し、時事通信は「中傷書き込みに無罪=ネット名誉棄損で新基準」との見出しで報じています。
 どの辺が「新基準」なのかというと、「インターネットの個人利用者として要求される水準の事実確認は行っていた」と認めた点です。

 実は今回の判決は、橋爪氏が主張していた「グロービートジャパンと平和神軍の一体性」は認められていません。無関係であるとまではされませんでしたが、両者の構成員が一致しているわけでもなく(幹部レベルでは必ずしもそうではないですが)、思想的な影響関係も認められないとされました。サイトの記述の真実性にかんする裁判所の判断について、橋爪氏側も「不本意」と語っていたほどです。サイトの中には挑発的・揶揄的と思える表現もあり、裁判所もそれを「揶揄的」と表現していました。


記者会見は報道陣で満席

 それでも「無罪」となったのは、まず、サイトの公益性と、サイトの趣旨が公益目的であることが認められたからです。全国にフランチャイズ店を展開するグロービートジャパンという会社に関する情報は公共の利益にかかわるものであり、「揶揄的な表現はあったが、全体として公益をはかる目的だったと言える」というのが、裁判所の認定です。
 名誉毀損が違法ではないとされるためには、公益性・公益目的のほかにもうひとつ、「真実性・真実相当性」という要件があります。前述のとおり、裁判所はサイトの記述に誤りが含まれていたと判断していますが、「真実と信じるに足る根拠(真実相当性)」があった場合は、やはり違法ではないと言える根拠になります。
 通常のマスコミ報道であれば、誤報道の原因が取材不足だったりすると「真実と信じるに足る根拠があった」と言いにくかったりもします。しかし今回の判決は、(おそらく初めて)「インターネットの個人利用者として要求される水準」というものを持ち出して、この点をクリアしました。

 「真実ではないと知って、あるいは確かめもせず発信したと言う場合でなければ、刑罰に処すのは適当ではない」と。そして、そういう判断をしなければ、「ネット利用者の表現活動が萎縮し、情報や思想の自由な流通がはかれない」というのが、今回の判決の考え方です。
 もともと橋爪氏のサイトは、パソコン通信「NIFTY-Serve」やインターネットでの平和親軍関係者の言動や、関係団体の登記謄本などを調べながら記述されており、それなりの根拠をもってグロービートジャパンと平和神軍の関係について語っていました。裁判所からは部分的に「真実性」が否定されましたが、橋爪氏のサイト運営の姿勢自体は、裁判所に評価されたようです。


会見で紀藤正樹弁護士は、黒須英治氏が
経営するイオンド大学の「学位販売」問題
にも言及した。

 無罪の根拠は「新基準」だけではなく、たとえば揶揄的な表現も、橋爪氏がメール等々を通じてグロービートジャパンや平和神軍の関係者から脅迫めいた暴言を浴びせられながらサイト運営をしていた中でのことであるがゆえに、「対抗言論」と認められたことが挙げられます。大雑把に言えば、「互いに言い合っている中で生まれた過激な表現は、多少におおめに見るべき」というような判断です。
 また、グロービートジャパンも平和神軍も独自にwebサイトを開設しており、関係者がネットを通じて橋爪氏に対抗するなど、いずれも「ネットを利用できる環境」であったことから、グロービートジャパン側に「反論の機会があった(実際に反論したかどうかと関係なく、反論できる状態にあった)」とされ、その点も裁判所の総合的な判断の根拠のひとつになっていました。

 これらをまとめると、web上で情報発信をする個人が今回の判決から得られる教訓は、こういうことかなと思います。

(1) 揶揄表現をするにしても、「公益目的」という大枠から外れない程度にする。
(2) 自分にとって可能な限りの事実確認作業をした上で書く。
(3) 一方的な挑発・揶揄表現は避ける。
(4) 妨害・報復に屈しない。

 (4)も実は、判決に影響を与えていたような印象です。読み上げられた判決を聞いた限りでは、橋爪氏がグロービートジャパン関係者から脅迫めいた言動などを浴びせられていたにも関わらず、なおもサイト運営を続けてきたことが、公共の利益に対する奉仕と裁判所に受け取られていたように思えました。


会見場には、橋爪氏の支援者であるブロガーの姿(写真・右)も。
「その時、自分ならばどうする」というみつをの書は、彼の心には
どう響いていたのだろう。ていうか、なんで裁判員制度のポスター
が相田みつをなのか。

 もちろん、裁判官が違えば結論も変わる可能性はありますが、今後、似たケースにみまわれた人にとって今回の判決は大きな助けになる判例だろうと思います。
 ぼくは最近、オーマイニュースというネットニュースで記事を書いています。一般市民が記者登録をして「市民記者」として記事を書くメディアです。もともと「市民ジャーナリズム」という言葉を生んだのは、こうした市民メディアよりも前からwebサイト・ブログなどで情報発信をしてきた個人の功績でしょう。今回の判決も、ひとりの個人が残した偉大な足跡として、市民メディア周辺の人々が自らの活動にまつわるリスクと覚悟を再確認する機会になればいいなと思います。

 ただ、気をつけたいのは、今回の判決を「素人の情報発信であれば誹謗中傷をしても許される」と解釈してはまずいだろうという点です。
 たとえ「インターネットの個人利用者として要求される水準」が一般的なマスコミ報道に求められる水準より低いものだとしても、ネットで情報を発信する個人がその時点での最善を目指さなければ、「無罪」にはなりにくいでしょうし、支援者も集まりにくいでしょう。
 ネットの個人利用者がマスコミより高い水準を求める必要はありませんが、最善を目指す姿勢は、個人であれ大手マスコミであれ、それぞれに相応のものが求められると思います。個人サイトとマスコミを別物として判断した判決ではありますが、最善を目指す姿勢は個人サイトにも求められるとする判決だったとも解釈できそうな気がします。


平和神軍も、右翼なら「日の丸」の決
定に敬意を払ったらどうか(橋爪氏
のコメントではなく藤倉の心の声)

 そういえば、ひとつ残念なことがあります。
 橋爪氏の無罪は、複数の大手マスコミが報じており、NHKでも放送されました。ところが、大半のメディアでは、ラーメンチェーン「花月」や「グロービートジャパン」「平和神軍」という会社名・団体名が伏せられており、グロービートジャパンが平和神軍と関係をもっているという事実には触れられていません。すでに書いたように、両者の「一体性」は判決では認められませんでしたが、関係があること自体はむしろ認められています。
 大手マスコミには、「現時点での最善」を目指す気はないんでしょうか。橋爪氏の支援者という立場で司法記者クラブでの記者会見を見学しておきながら大手メディアの悪口を書くのも忍びないですが、なんか情けないです。

※傍聴で分かりにくい文章の判決文を耳で聞いてただけなのと、別に法律の知識とか豊富じゃないので、間違ってる部分もあるかもです。間違ってたらあとで訂正するので教えてください。

【参考記事】
◆弁護士紀藤正樹のLINC TOP NEWS-BLOG版
速報!無罪判決が出ました。
◆弁護士山口貴士大いに語る
【祝】【無罪判決】グロービート・ジャパン(らあめん花月)/平和神軍観察会事件判決速報
◆酔うぞの遠めがね
平和神軍事件・無罪判決

« 2008年1月 | トップページ | 2008年6月 »