雁屋哲は鼻血出たって言うけど、オレなんか腰痛治ったんだぜ
雁屋哲氏による『美味しんぼ』鼻血問題、批判を受けて掲載誌『スピリッツ』が特集記事を載せるそうで。
海原雄山がしかめっ面で「む、私も鼻血が出た」って言っているコマなんか、ほとんどギャグだと思う。それはさておきこの問題って、結局のところ「現地の人が言っていたから書きました」「オレが経験したんだから書きました」っていう、悪い意味でバイアスを欠いている点が問題なんじゃないかと思います。
『美味しんぼ』はフィクションだけど、食に関する情報、特に今回は福島の現状に関する情報など、取材に基づいた真実であるという前提で読者が受け取るであろう描き方をしている点で、求められるモラルは報道と同種のものだろうと思います。
通常、メディアが報道する際に「バイアス」がかかるというのは、よろしくないことであるかのように言われることが多いですが、必ずしもそうではない場面もあります。メディア側が「取材した相手がこう言っているけど根拠を確認できない」「記事で伝えるべき主題からズレる」「取材相手の名前を出し、その人の責任の元で発信される主観として掲載するにも限度がある」と考えて、実際に報道する内容から除外するというケースは、どんな報道でもあり得ます。それがないなら、メディアは誰かが言ったことを右から左に垂れ流すだけの存在になってしまいます。
もっとも、これは通常「バイアス」とは呼ばず、「良心・良識」と呼ばれるものなんだけどね。
今回の件は、とりあえず雁屋哲氏自身が「鼻血が出た」と述べること自体はセーフかもしれない。前双葉町長の「福島では同じ症状の人が大勢いる」は、複数の証言を取るなり何かの調査結果を確認するなりしないと危うい。そこは、実際に雁屋氏らがどういう取材をしたかわからないので、何とも言えないけど。
確実にアウトなのは、原発事故との因果関係があると言っているようにしか読めない表現です。
その点については、『美味しんぼ』では、「現地の人が言っていたから書きました」「オレが経験したんだから書きました」以上のものが示されていない。個人的体験だけでは、「鼻血・疲労感が福島で多い」かどうかも原発事故との因果関係もわかりません。
因果関係は、個人的体験ではなく検証によって確認されるものです。
たとえばぼくは、チェルノブイリを2度取材していますが、2度とも、出国前から腰痛がひどくなっていました。1度目の時なんか、一時マトモに歩けなくなったほどです。ところがチェルノブイリの汚染区域を歩きまわって、チェルノブイリ市で宿泊してキエフに戻ったら、腰痛がきれいさっぱり消えました。福島第一原発の事故の直後も、原発の20km圏内に通いました。この時は、ちょっと腰が重いという程度の症状でしたが、やっぱり取材しているうちに治りました。
さて、ぼくのこの「個人的体験」は、「放射能のおかげで腰痛が治った」と言えるものでしょうか。知人などに冗談で「チェルノブイリ健康法」なんて言ったりしますが、それが真実であるかのように世間様に吹聴したりはできません。因果関係なんか検証してないし、そもそも因果関係を本気で期待していないし、万が一因果関係があったとしても、腰痛が治る代わりに被曝で病気になるんじゃ意味ないから。
『美味しんぼ』が作品で「鼻血・疲労感」について言及するにしても、原発事故との因果関係を(あるいは、そもそも鼻血・疲労感が、福島でそんなに多いのかという前提事実を)、「そう言っている人がいるが確認できない」ものとして紹介するのと、それが真実であるかのように紹介するのとでは、雲泥の差です。言うまでもなく、「鼻血・疲労感」は放射線障害でしか発生しない症状ではなく、たとえば避難生活・復興活動のストレスによって発生する可能性だってあるわけですから。
近年ネットを中心に、素人や、プロではあるがプロと呼びがたいクオリティの自称ジャーナリストたちが、様々な社会的テーマについて情報や主張を発信している現状があります。カルト宗教関連団体など、明らかに信用に足らない集団の記者会見を「報道」と称して生中継した愚かな自称ジャーナリストたちの群れもいます(自由報道協会と、そこに群がる自称ジャーナリストたちのことです)。
報道の受け手ではなく発信する側の衆愚化を支えているひとつの要因が、「こういうことを言っている人がいる」ということを単純に右から左に伝えるという、悪い意味でバイアスを欠いた情報発信を「報道」と呼んで恥じない風潮がまかり通っている点のように思います。
『美味しんぼ』の前段階として同じネタで批判を浴びた「日豪プレス」の雁屋哲インタビューも、「雁屋哲がそう言っているから載せた」というレベルにしか見えません。このインタビュー記事では、雁屋氏が『美味しんぼ』以上に「原発事故と鼻血・疲労感」を結びつけ、「人は住んではいけない所になってしまった」と語っています。また、日豪プレス側が「東北地方の海産物の多くを今後食べられなくなる可能性も」と話を振って、雁屋氏が「恐らく食べられなくなるでしょうね」と答えるという、風評の共犯行為も繰り広げられています。
良心・良識というバイアスを欠いていると、こういうことになります。
ぼくは幸福の科学学園の生徒や保護者に取材して記事を書いて、学園から訴えられています。取材源秘匿の原則にのっとって、取材源の書面提出も出廷も行いません。
でも、複数の生徒や保護者に取材してそれぞれの証言の整合性や複数ルートでの証言の有無を確認し、取材済みの相手に対しても、原稿を書く際のデータ整理の段階で何度も電話やメールをして詳細を確認しました。この手順によって、多くのネタを切り捨てるバイアスがかかっています。取材源の言葉を「信用できないから」ではなく、「確認のしようがないから」です。たとえ相手を信用していたとしても、より確実と言える部分を優先する。当然の「バイアス」だと思います。
ここまでちゃんとやってたんですよ、ということを法廷で示せるからこそ、取材源を秘匿したままでも、ある程度自信を持って裁判に臨めます。裁判所の判断は水物な面もあるので、必ず勝てるとは限りません。でも、裁判の勝敗と関係なく、世間様に恥じる点はないという自信は揺るぎません。
放射線と健康被害の因果関係を後追いで断定するのも難しいと思うので、ぼくの裁判の件とは全く事情が違うとは思います。しかし、その点を差っ引いても、今回の『美味しんぼ』の表現は、お粗末です。
ぼくは「その程度の被曝で鼻血は出ない」という理屈を振りかざして『美味しんぼ』をデマだと言うつもりはありません。「その程度の被曝で鼻血は出ない」という見解がおそらく現在のところスタンダードっぽいということはわかりますが、ぼくが自分自身の主張として口にできるほどの知識はありません。
ただ、『美味しんぼ』が、そういった従来の常識を覆すほどの根拠を示さないまま、因果関係を断定しているに等しい言説を垂れ流しているのだということはわかります。
ちなみに2011年の福島第一原発事故の直後、1カ月間くらい20km圏とその周囲に通って取材していた中では、ぼくは「鼻血・疲労感」を訴える人には出会っていません。避難せずに20km圏内に残ったままだった人に会った時も、そういう話は出ませんでした。もっとも、20km圏内にはほとんど人がいなかったし、長期的な追跡取材はしていないので、ぼくが見たものを根拠に全体の傾向を語ることはできません(こうやって情報の確度を測れる要素を読者に示すのも、良心だと思うんですけどね)。
またぼく自身も、チェルノブイリ・福島のどちらの取材でも鼻血は出ませんでした。放射能のせいだと疑いたくなるほどの疲労感も経験していません。腰痛は治りましたが、だから何だって話です。
仮に雁屋氏らが、「鼻血・疲労感」と原発事故との関係について、実はものすごい確認作業をしていたのだというのであれば、『スピリッツ』の特集記事は従来の常識を覆して原発事故の健康被害を世に訴えるものになるのかもしれません。しかし編集部はすでに、釈明文の中で、「鼻血や疲労感が放射線の影響によるものと断定する意図は無」いと表明しています。特集記事で、常識を覆す取材結果が示される可能性は期待できません。
問題とされる回の前までの『美味しんぼ』が、放射能被害や風評被害と格闘する福島の農家等の苦悩を描いてきたのを、ぼくは読んでいます。編集部は釈明文の中で「風評を助長する意図はない」という趣旨のことを書いていますが、実際、そういう意図はないのだろうと思います。
しかし重要なのは、意図の有無よりも前に、実際の表現が風評を助長していないかどうです。『スピリッツ』の特集記事が、自らの表現への真摯な反省を伴った内容になることを期待します。
あ、申し遅れましたがわたくし、以前『反日マンガの世界』というムックで、雁屋哲氏について書いた記憶があります。
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コメント
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でも正直、美味しんぼまだ続いてたんだが感想かな
投稿: | 2014年5月29日 (木) 04時58分
アレフの潜入記事がみたいです。
投稿: パソ | 2014年7月10日 (木) 19時22分
http://hs-sns.net/?m=pc&a=page_o_login
みんなで「ハス」に乗り込まね??
スパイごっこしようぜ!!
HS撹乱要員の溜り場らしいよ、
ここ(笑)
≪拡散≫
呪詛会議が日々、行われている「ハス」です。
拡散しよう!!
投稿: トンヌラ | 2014年11月 9日 (日) 17時42分
雁屋哲? 是って相当な「サヨク」じゃね?
投稿: 不幸せの科学 | 2015年1月24日 (土) 14時41分
クルクルパー 大人になっても クルクルパー
という川柳が浮かびました。
めざわりで 検索の邪魔 つまらない 幼稚なブログで 低脳さらし
これもぴったりかも。
投稿: | 2015年8月31日 (月) 08時49分
全削除 したらみんなの ためになる でもするわけない くずだから
おばかさん かわいそうだね そのメンタル とっとと出てきて 掃除せよ
誰が読む? そろそろ撤収 学んだろ? もうじゅうぶんだw 低知能
投稿: | 2015年8月31日 (月) 08時57分